半導体とは?身近な機器を支えるメカニズムや導入方法を紹介

半導体は、近年目覚ましい発展を続ける分野です。IT業界の技術は年々進歩し、さまざまな精密機器が日常生活に根付いています。機器の複雑な動作を実現させるには、電子回路を細かく制御する必要があり、半導体はその役割を担う存在です。

製品開発の段階で半導体を導入する、またその性質を応用することで、より便利な機能を搭載できる可能性があります。半導体の導入によって製品の売り上げ向上やシェア拡大など、ビジネス面でさらなる発展に期待ができます。

この記事は、半導体の仕組みや具体例、導入の手順などを紹介します。将来性の高い分野であるため、メカニズムや業界の流れを把握することで自社の事業に活用できる場面を探しましょう。

半導体とは

電気を流しやすい導体と、電気が流れにくい絶縁体の間にあたる存在が半導体であり、さまざまな機器の内部に活用されています。まずは素材や用いられる技術、N型とP型に分かれる種類など基本的な知識を学習し、機器の制御につながるメカニズムについて理解を深めましょう。

導体と絶縁体との違い

導体とは、金属のように電気を流しやすい素材のことです。一方の絶縁体は、ガラスやゴムのように電気を通しにくい素材です。その両方を兼ね備える素材が半導体であり、電気を通す動作、通さない動作の切り替えができる点に特徴があります。性質を変えられない他の物質に対して、半導体は熱や電圧の力で性質を変化させられる点が違いです。

機器の動作においては、電気を通すときと通さないときを瞬時に切り替えられる性質が役立ちます。たとえばコンピュータの動作は、「0」か「1」の信号を絶えず切り替えることで成り立ちます。つまりコンピュータの複雑な制御は、電流のスムーズな切り替えで実現できます。

半導体の主な素材と最新技術動向

半導体として利用できる素材は、シリコン・ゲルマニウム・炭化ケイ素・窒素ガリウムなどです。このうち、シリコンやゲルマニウムは古くからさまざまな機器の内部で活用されている素材です。物質単体では電気を通しにくいため、若干の不純物を付け加えて、半導体の性質を持たせる技術が活用されています。

炭化ケイ素(シリコンカーバイド)や窒素ガリウム(ガリウムナイトライド)は、近年活用される機会が拡大した素材です。温度や電圧への耐性、電力変換の効率性に優れたこれらの素材は、電気自動車やLEDなどの最新技術に用いられます。とくに近年の精密機器には環境への配慮が求められるため、より高い効率で電力を活用できる半導体の素材が重要です。

半導体の種類:N型とP型半導体の役割

前述したように、半導体は不純物を添加する手法で生産されます。なかでもN型とP型の2種類が存在し、それぞれ添加された不純物の特徴で分類が異なります。

片方のN型半導体は「Negative」の頭文字をとったものです。シリコンやゲルマニウムよりも多く電子を有するリンやヒ素を不純物として添加すると、「自由電子」として余ります。その自由電子は回路内を動き回ることで、電流の運搬ができる仕組みです。

一方のP型半導体は「Positive」の頭文字からなる、逆の性質を有する存在です。ホウ素のように、電子の少ない不純物が材料として加えられます。電子の足りない部分は「正孔」と呼び、自由電子の動きを埋め合わせる受け皿として機能します。

つまり、P型半導体の中の正孔へN型半導体内の自由電子が移動し、電流を運搬する仕組みが形成されます。

電流の制御と増幅のメカニズム

半導体は、電流の自在なコントロールによって機器を動かします。そのメカニズムを構成するものとして、「トランジスタ」が重要な存在です。トランジスタは「トランスファー(伝達)」と「レジスター(抵抗)」を掛け合わせた言葉で、機器の複雑な動作を実現できる半導体装置です。

制御と増幅は、前述のN型、P型の両方を組み合わせた装置の力で行われます。自由電子の動きをコントロールすると、電流のオンとオフを自由に切り替えるスイッチのような働きが可能です。また、トランジスタによる増幅を活用すると、小さい信号だけで大きな電流を制御できるため、小型な半導体を搭載したデバイスでも高いスペックを実現できます。

半導体の必要性

半導体は多くの精密機器に埋め込まれた部品のひとつです。日常生活では目に触れにくい存在ですが、現代社会のインフラを支える重要な役割を担っています。各産業で用いられるデジタル機器の情報処理能力をさらに向上させることで、技術革新と社会課題の解決に寄与する可能性を秘めます。

電気の流れを自由に制御できるので情報処理能力に利用できる

半導体の強みは、電気を通すときと通さないときを自由に切り替えられる点です。この制御の性能が、あらゆる機器の情報処理能力を支えています。電流のオンとオフ、通す量をコントロールすることで、柔軟な動作が可能です。

たとえば、近年のコンピュータは高速の情報処理や計算ができます。この能力の実現には半導体の力が影響しており、電気信号の切り替えや効率的な増幅でコンピュータの性能を底上げしています。

膨大な量の情報を扱う通信機器は現代社会に欠かせない存在であり、人々の生活に根付いています。仕事や日常生活の効率化を図るうえで、情報処理のスピードと品質が重要です。半導体は、ほとんどの分野で活用される機器の動作に大きな影響を及ぼしています。

電子部品の小型化と高性能化が実現し技術進歩の助けになる

デジタル技術が発展すると機器のサイズは小さくなり、高性能化がさらに進みます。電流の供給と増幅に際して、従来は一定の容量や面積が必要だった場合でも、最新技術で効率的な電力運搬が実現すると、より小さい半導体で機器の動作が可能です。

現代社会で用いられるスマートフォンは、片手に収まるほどのサイズ感です。かつては、持ち運びには向かないサイズのPCでようやく実現できた情報処理や計算の作業が、今では手のひらのうえで完結できます。これは技術進歩で半導体をさらに小型で生産でき、電子機器そのもののスペック向上に貢献した成果です。

製品の小型化が進むと、持ち運べる人口が増えます。また、半導体装置の生産が標準化できれば、価格も抑えられます。結果として電子機器が広まり、さらなる社会の発展が見込めます。

半導体の種類を身近な機器と一緒に紹介

半導体はジャンルを問わず、あらゆる機器の内部に搭載されています。以下で、4つの半導体と代表的な機器の具体例を紹介します。電子信号の伝え方や出力方法に応じて、さまざまな活用ができます。身近な活用例を知ることで、現代社会で担っている役割の理解を深めましょう。

アナログ半導体

アナログ半導体は、自然に存在する信号を自在に操り、出力する装置です。電気や音、光のような自然に存在する物理信号(アナログ信号)を受容し、電気信号に変換させて制御、増幅させる点に特徴があります。

具体例は、音を増幅させるスピーカー機器です。アナログ信号である音波をアナログ半導体が受取、電気信号として増幅させるメカニズムで、より大きなボリュームの音として出力できます。マイクやアンプなどの装置も同様の仕組みです。

本来はデータ化できない物理的な存在や、自然界の環境音を操れる点が、アナログ半導体の強みです。わずかな光源を用いて明るく照らす、または小さな音を拡大するといった機能は、生活の利便性を大きく高めています。

パワー半導体

パワー半導体は、その名の通り大きな電力を扱うことができる装置です。自然界のあらゆる信号を扱うわけではなく、電力のコントロールを専門とする点が特徴です。大型機器の動作は、大容量の電流をスイッチング、また増幅させることで制御できます。

冷蔵庫やエアコンのような大型家電は、パワー半導体が活躍する典型的な例です。半導体が電力を自在にコントロールして冷却機能をサポートします。年々性能が向上し、利便性が高まる家電の裏には、パワー半導体の技術進歩が貢献しています。

近年では、電気自動車のように環境への負荷が少ない機器を開発するうえでもパワー半導体が役立っています。自動車を動かすための膨大な電力をうまく制御して、スイッチ切り替えや増幅に利用することで、高い電気効率の維持が可能です。

半導体メモリ

電子機器を便利に使ううえで、データやプログラムを記憶させる働きが重要な役割を担います。半導体メモリは、記憶装置に用いられる部品です。メモリは、データの書き込みと呼び出しが可能なRAMと、呼び出しに特化したROMの2種類に分かれます。

RAMは一時的な記憶装置であり、電源を切ると書き込んだデータは消えてしまいます。この消える性質は「揮発性」と呼びます。RAMが活用される具体例は、PCやスマートフォンで保存する前の作業データです。

ROMでは永続的にデータの記憶ができ、電源を切って入れ直してもデータが保持される「不揮発性」の特性を持ちます。たとえば、デバイスに保存した写真や動画のデータ、またはUSBメモリのような外部記憶装置でROMが活用されます。

ロジック半導体

ロジック半導体は、電子機器の情報処理を根幹から支える存在です。入力された信号を踏まえて、演算や状況判断の処理を出力します。あらゆる機器の頭脳を司る役割がロジック半導体であり、近年の技術進歩に大きく貢献しています。

身近な例は、コンピュータ機器に搭載されるCPUです。各種アプリの動作や動画の再生など、素早い情報処理と高い計算能力は、ロジック半導体の力によって実現しています。

半導体が小型化すると同時に、デバイスも小型サイズでの製作が可能になりました。データ伝達の技術が年々高まり、効率が上がることで、小さなCPUを搭載したスマートフォンのような小型デバイスであっても、膨大なデータ量の情報処理ができます。

半導体会社が伝授:導入や企画段階で押さえるべきポイント

半導体の価値と将来性に魅力を感じ、自社のビジネスに取り入れたいと考えたとき、あらかじめ押さえたいポイントが存在します。調達に至るまでのコスト管理や、リスクとリターンの見極めが大切です。また、初めての場合は導入後の用途やサポート体制も意識して選定しましょう。

用途を明確にする

まずは半導体を導入するうえでの用途を策定する必要があります。具体的なプランが定まらないまま企画、導入を推し進めると、目的を見失うおそれがあります。

用途は、自社が抱える課題や今後の目標から定めると効果的です。たとえば、自社で開発する機器の性能をさらに高めたいのであれば、必要な能力を見定め、どの種類の半導体を導入するのかを明確にします。種類を選定できれば、半導体に要求するスペックやサイズなどの具体的なプランも可視化できます。

また、導入の用途を決めるにあたっては現状の分析が重要です。自社が業界内で置かれているポジションや、競合他社と比較した際の強みや弱みは、用途の策定に際して判断材料として活用できます。

コストと信頼性と投資回収の検討する

半導体に限らず、ビジネスシーンでの新たな投資にはコストが発生します。前述の用途をクリアできた後は、必要な初期投資額や年間の費用を把握し、売上向上による投資額の回収見込みまで入念に検討する工程が大切です。

半導体装置は新たに導入して終わりではなく、継続利用や運用中の保守など追加でコストが発生する場面も存在します。複数年にわたる導入計画を立てて、売上の見込みと発生費用を比較した予算を組むと、導入の成功率は高まる可能性があります。

また、半導体会社の信頼性を見定める作業も重要です。コストや納期を比較し、自社のニーズを最も満たせる会社に依頼する必要があります。半導体の性能は機器のパフォーマンスを左右するため、技術面で信頼できる会社を探しましょう。

サプライチェーンや依存リスクの把握をする

半導体を導入して自社製品に活用するうえで、サプライチェーンを入念に把握する必要があります。サプライチェーンとは供給網のことで、半導体の場合は販売会社だけでなく、材料の調達、加工を担う会社もサプライチェーンに含まれます。

仮に材料不足や輸送トラブルなどの問題で半導体加工会社の生産が止まると、販売会社は在庫の確保ができなくなり、自社に半導体装置が届かなくなるおそれがあります。半導体を用いた機器が主力商品であれば、生産が滞って事業に大きな影響を及ぼすことがあります。

このようなリスクを回避するには、複数の供給網を確保することが大切です。取引先との深い信頼関係は大切ですが、特定の会社に調達を依存すると、万が一の生産停止リスクを抱える結果につながります。

サポート体制は充実しているか確認する

初めて半導体を導入するのであれば、計画立案から保守まで伴走してもらえる協力会社を選定しましょう。半導体装置が機器に及ぼす影響や、具体的な性能を把握するには専門知識が必要であり、自社のリソースだけでは解決できない問題も起こり得ます。

導入の試験段階では、機器が思い通りのパフォーマンスを発揮できないトラブルが想定されます。半導体の実装に関するノウハウを有する会社にサポートしてもらうことで、動作の正確性や安全性を確保した状態での販売が可能です。

また、導入後のサポート体制にもこだわると、半導体の実装計画を長期的に継続させられます。最新技術の提案や開発担当者への研修など、半導体会社が導入後も携われる領域は数多く存在します。

半導体領域は今後も拡大する

半導体領域の展望を紹介します。デジタル機器の技術進歩と需要が大きい現代社会において、半導体のニーズは今後も拡大し続ける見込みです。パワー、ロジックなどさまざまな活用シーンに応じて、開発と進化がますます進みます。将来に向けての課題も含めて、今後の展望を把握しましょう。

半導体製造装置市場の拡大

半導体を活用できる最新機器のニーズが高まると同時に、市場はさらなる拡大を見せています。より高度な推論や素早い計算を要求するうえで、半導体の力が不可欠です。

たとえば、AIを搭載した最新機器に半導体の需要があります。学習モデルの構築にロジック半導体が役立ち、アウトプットの際にも活用されます。また、電気自動車も近年成長を遂げた分野です。効率のよい電気の伝達を、パワー半導体で実現しています。

将来性の高いIT分野には半導体装置の存在がつきものです。最新技術の発展とともに、より高性能で小型の半導体が開発されて、新たな機器に活用される流れが構築されています。IT産業の盛り上がりに比例して、半導体装置の市場も拡大を続けると予想されます。

次世代半導体の開発

既存の素材や装置に加えて、各国で次世代の半導体が開発されています。より性能の高い素材を用いた半導体が完成すれば、機器のスペック自体がさらに向上します。

具体例は、ダイヤモンドを素材として活用した半導体です。既存のシリコンやゲルマニウム素材と比較すると、より高温・高電圧の環境に耐えられる力があり、放熱を少なく抑えられる効率性にも優れています。日本でも開発が進んでおり、2025年には国内で初めてダイヤモンド半導体工場の建設が開始される見込みです。

次世代の技術が生まれると、業界内での競争が活発して市場全体がさらに拡大します。半導体の導入にあたっては、つねに最新の動向をチェックする姿勢も大切です。

参考:ダイヤモンド半導体とは?|産総研マガジン

市場の課題と展望

半導体市場が抱える課題は、必要な電力や半導体素材を安定して確保することです。技術革新で市場が拡大する一方、資源の供給が追いつかなくなるリスクも存在します。

既存の素材が足らなくなると、半導体の生産ごと止まるおそれがあります。また、電力不足によって大型の機器やデータセンターなどの稼働に支障が生じるケースも想定されます。半導体素材のサプライチェーンや、公共インフラを取り巻く環境は災害や情勢に応じて変動するため、供給不足に向けた対策が必要です。

最先端の技術を用いた機器の開発が進む現代において半導体装置の需要は高く、市場自体は継続的な成長が見込まれます。広がる需要に対する供給量の確保が、今後のポイントといえます。

まとめ

この記事では、半導体の基礎知識について、具体例を交えながら紹介しました。電気を通す性質、通さない性質の両方を兼ね備える半導体には、電気信号を自由に制御、増幅させる力があります。スイッチの切り替えや音の拡大など、精密機器の柔軟な動作を可能にする存在が半導体です。

機器に求める動作や性能に応じて、さまざまな装置が存在します。身近な例では、電気自動車や家電など大型機器にはパワー半導体が使われます。PCやスマートフォンは高度な情報処理や記憶能力が必要であり、半導体メモリやロジック半導体が機能します。

新たに半導体を自社ビジネスに取り入れたい場合は、入念な計画が必要です。用途や予算、仕入れ先の選定など、幅広い視点で導入計画をしましょう。自社の現状分析と、半導体に関する事前知識の補強が役に立ちます。