電子回路で欠かせないダイオードとは?半導体との違いと役割をわかりやすく解説

電子回路の設計や修理において欠かせない存在である「ダイオード」。電流を一方向にだけ流すというシンプルな働きながら、電源の整流や電圧の安定化、回路保護など、幅広い用途で活躍しています。

しかし、「半導体とダイオードの違いは?」と聞かれると、意外と曖昧なまま使っている人もいるでしょう。

単純な部品に見えますが、実は種類が多く、用途に合った最適な一つを選ぶには専門的な知識が必要です。そこで今回は、半導体専門商社の株式会社eParts Electronicsが、現場の実務視点を交えてダイオードの基礎を解説します。

本記事では、ダイオードについてわかりやすく解説しながら、半導体としての特徴や種類、そして実際の回路での役割までを体系的に紹介します。

目次

ダイオードとは?半導体としての基本原理と「一方向」の理由

電子回路における「門番」とも言えるダイオードは、電流を一方向にのみ通過させ、逆流を阻止する「整流作用」を持つ最も基本的な能動素子です。

その内部には、電気的な性質が異なる「P型半導体」と「N型半導体」を接合させた「PN接合」と呼ばれる構造(ショットキー型の場合は金属と半導体の接合)が隠されています。この接合面において、電荷の運び手であるキャリア(正孔と自由電子)が互いに打ち消し合うことで「空乏層」という電気的な壁が形成され、これが逆方向からの電流をせき止める役割を果たしています。

半導体技術の基礎とも言えるこのメカニズムを理解することは、トランジスタやICといったより複雑なデバイスの動作原理を知る第一歩でもあります。

半導体とダイオードの違い

「半導体」と「ダイオード」は混同されがちですが、厳密には「材料」と「その材料で作られた部品(デバイス)」という包含関係にあります。

まず「半導体」とは、電気をよく通す「導体(金、銀、銅など)」と、電気をほとんど通さない「絶縁体(ゴム、ガラスなど)」の中間の性質を持つ物質のことを指します。代表的な素材はシリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)であり、近年では炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)なども実用化されています。純粋な半導体(真性半導体)は電気をあまり通しませんが、ここに不純物を微量添加(ドーピング)することで、電気伝導性を劇的に変化させることができます。

一方、「ダイオード」は、この半導体材料に特定の加工を施して作られた「電子部品」の一種です。具体的には、電子が不足している(正孔が多い)状態にした「P型半導体」と、電子が余っている状態にした「N型半導体」を接合して作られます。つまり、半導体という「素材」の特性(ドーピングによる電気伝導制御)を利用して、整流という特定の「機能」を持たせた製品がダイオードなのです。したがって、「ダイオードは半導体製品の一つである」というのが正しい理解です。このP型とN型の組み合わせ技術は、その後のトランジスタやLED、太陽電池などの開発にもつながる、エレクトロニクス産業の根幹をなす技術です。

なぜ電流は一方向にしか流れないのか

ダイオードが一方向にしか電流を流さないのは、PN接合界面におけるキャリア挙動と内蔵電場の形成機構によるものです。

P型半導体には正孔(ホール)、N型半導体には自由電子が多数キャリアとして存在します。これらを接合すると、両領域のキャリアが相互に広まって再結合を起こし、その結果、キャリア密度が極端に低下した領域いわゆる空乏領域(デプレッションゾーン)が生成されます。

この領域には内蔵ポテンシャル(ビルトインポテンシャル)が形成され、電荷の流動を阻むエネルギー障壁として機能します。

記号の読み方とカソードマークの意味

回路図を読む際や基板に部品を実装する際、ダイオードの極性を正しく理解しておくことは、回路の誤動作や破損を防ぐために極めて重要です。

まず回路図記号ですが、ダイオードは「三角形(矢印)」と「棒線」を組み合わせた記号で表されます。この矢印の向きは、電流が流れる方向(アノードからカソードへ)を示しています。

  • アノード(Anode:A):プラス側。電流が入ってくる端子。記号の三角形の底辺側。
  • カソード(Cathode:K):マイナス側。電流が出ていく端子。記号の棒線側。

実物のダイオード部品においては、どちらがカソードかを見分けるために「カソードマーク」と呼ばれる印が付けられています。
一般的なアキシャルリード型(円筒形に足がついたタイプ)や表面実装型(チップ部品)の場合、本体の片側に帯状のライン(線)が印刷されていますが、このラインがある側がカソード(マイナス)です。つまり、電流はラインのない方からラインのある方へ向かって流れます。
ブリッジダイオードなどのパッケージ品では、「+」「-」や「~(交流入力)」といった記号が直接刻印されていることもあります。逆向きに実装すると、回路が動作しないどころか、大電流が流れて部品が焼損する恐れがあるため、実装前の極性確認(マーキングの目視やテスターでのチェック)は必須の工程です。


ダイオードの主要な役割と回路での応用例

ダイオードは方向性を活かして、電子回路のさまざまな場面で重要な役割を果たしています。代表的なものとして、交流を直流に変換する「整流作用」、過電圧から回路を守る「保護作用」、信号や電力を高速に切り替える「スイッチング作用」などがあります。

ここからは、これらの主要な機能と、実際の回路でどのように応用されているのかを具体的に見ていきましょう。

整流作用:交流を直流に変換する

ダイオードの中核的な機能のひとつに「整流動作」があります。整流とは、交流(AC)信号を一方向の直流(DC)に変換し、エネルギーを一定方向にのみ伝達させるプロセスを指します。

交流では電圧極性が周期的に反転しますが、ダイオードはその単方向導通性によって正の半周期のみを通し、負の半周期を遮断します。これがいわゆる半波整流回路です。さらに、4素子のダイオードをブリッジ構成で接続した全波整流回路では、正負両方の波形を有効活用し、より高い平均出力電圧を得ることが可能になります。

この手法は電源ユニットやインバータ回路などで標準的に採用されています。整流後の電圧波形は依然として脈流成分(リップル)を含みますが、平滑コンデンサやチョークコイルを組み合わせることで電圧変動を低減し、安定したDC出力を生成します。

ブリッジ整流回路の仕組みと効率

ブリッジ整流回路とは、4個のダイオードを菱形状(ブリッジ構成)に組み合わせて、交流電圧を直流へ変換する変換回路です。交流入力は周期的に極性が反転しますが、この構成では電流が常に一定方向へ流れるよう経路が設計されています。

結果として、波形全体を利用した「全波整流」が実現し、エネルギー変換効率が向上します。半波整流と比較すると、導通期間の拡大や出力電圧の平均値上昇が得られ、エネルギーロスが少ない点が特長です。出力には微小な脈動(リップル)が残るため、平滑用コンデンサやチョークコイルを併用して電圧を安定化させます。

保護作用:過電圧・逆電圧から回路を守る

ダイオードは、過電圧や逆極性印加による破損を防ぐプロテクションデバイス(保護素子)としても極めて重要な役割を担います。

電源ラインで誤配線や逆接続が発生すると、逆方向電流が流入し電子部品が損傷する恐れがありますが、電源と負荷の間に直列バリアダイオードを挿入することで、電流の逆流経路を物理的に遮断できます。さらに、電源入力部にクランプ構成(並列保護回路)として配置する場合、所定の逆電圧を超えるとダイオードが導通し、過剰な電位をグランドへバイパスして回路を防護します。また、モーター・リレー・ソレノイドなど誘導性インピーダンス負荷を伴う回路では、スイッチング時に高エネルギーの逆起電力(サージトランジェント)が発生します。

これを放置すると、トランジスタやロジックICが過電圧ストレスにより破壊される危険があります。

サージ吸収や逆接続防止における活用

サージ吸収および逆極性防護の観点から、ダイオードは電子回路のトランジェント抑制デバイスとして極めて重要な役割を果たします。特にモーター、リレー、ソレノイドといった誘導性ロードを伴う系では、スイッチングオフ時に蓄積磁界エネルギーが瞬間的な高電圧スパイク(サージトランジェント)として解放されます。これを放置すると、トランジスタやICなどの半導体素子が過渡的ストレスを受けて破壊し、制御波形が乱調を起こす恐れがあります。

そのため、負荷端子にフライホイールダイオード(フリーホイールパス)を並列接続し、逆方向電流を逃がしてエネルギーを安全にディスチャージします。これがいわゆるサージアブソーブ動作です。一方で、逆極性保護(リバースポラリティプロテクション)では、電源接続を誤った際の逆電流流入を防ぐため、ダイオードを電源ライン上に直列またはパラレルクランプ構成で実装します。直列方式は完全遮断を実現し、並列方式ではヒューズとの連携により過電流を速やかに遮断します。

スイッチング作用:高速なON/OFF制御

ダイオードは、電流経路を極めて短時間で切り替えるスイッチング素子としても重要な役割を果たしています。特に、スイッチング電源やインバータ、DC-DCコンバータといった高周波スイッチング系統では、電流をナノ秒オーダーでON/OFF制御できる特性が求められます。

ダイオードは印加電圧の極性変化に応じて導通・遮断を自動的に切り替え、電力変換効率を最適化します。標準的な整流用デバイスはキャリア蓄積時間(トランジションディレイ)が長いため、高速応答が必要な領域ではファストリカバリーダイオード(FRD)やショットキーバリアダイオード(SBD)が採用されます。これらは少数キャリアがほとんど関与しない構造を持ち、リカバリ時間(trr)が極めて短いのが特長です。

その結果、逆方向への切り替え損失が低減し、スイッチング損失全体を抑制できます。

定電圧作用:安定した電圧供給の実現

ダイオードは、一定の電位を安定的に保持するリファレンス素子としても機能し、その代表格がツェナーダイオード(Zener Diode)です。

このデバイスは通常の整流用ダイオードとは動作領域が異なり、逆方向バイアス領域における特性を積極的に利用します。印加電圧がある閾値(ツェナー電圧)に達すると、ツェナー効果やアバランシェ効果によって内部の電界が強まり、キャリアがトンネル的に移動し始めます。これにより、逆方向であっても一定の電圧を維持したまま電流が流れるという特性が得られます。

この「電圧クランプ作用」は、電源系統の基準電圧源や過電圧リミッタ、さらにはレギュレーション回路において広く利用されています。ツェナー電圧を精密に選定することで、回路の電圧安定性を確保でき、マイコン電源保護や信号ラインのリファレンス生成などにも応用可能です。

発光・受光作用:LEDとフォトダイオードの仕組み

光を介したエネルギー変換も、ダイオードの中で極めて重要な応用領域のひとつです。発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、順方向バイアスを印加することで電子と正孔が再結合し、その際に放出されるエネルギーが光子(フォトン)として放射されるエレクトロルミネセンス現象を利用しています。

発光波長、すなわち色は用いる半導体材料のバンドギャップエネルギーによって決まり、赤外〜可視〜紫外領域まで広範囲に対応します。近年では白色LEDの高効率化が進み、一般照明・車載ヘッドライト・表示デバイスなどで不可欠な素子となっています。

【用途別】ダイオードの主な種類と選定のポイント

ダイオードには、用途や特性に応じてさまざまな種類があります。電源回路で使われる整流用、電圧安定に使うツェナー型、高速スイッチング用のショットキー型、さらに光を扱うLEDやフォトダイオードなど、それぞれに適した性能と役割があります。

ここからは、代表的なダイオードの種類ごとに特徴と選定時のポイントを詳しく見ていきましょう。

整流ダイオード:電源回路の主役

整流ダイオードは、交流(AC)を直流(DC)へと変換する電力変換ステージの要素デバイスとして機能する最も基本的な半導体素子です。電源モジュール、ACアダプタ、スイッチング電源など、ほぼすべての電子機器で整流ブロックとして採用されています。

この種のダイオードの優位点は、構造がシンプルでコストパフォーマンスに優れること、さらに高電流・高耐圧動作が可能な点にあります。一方で、キャリア再結合を伴う構造のため逆回復特性(Reverse Recovery)が遅く、高速スイッチング用途には適しません。

選定時には、順方向定格電流(IF)、逆方向耐圧(VRRM)、順方向電圧降下(VF)、および逆回復時間(trr)などのパラメータを確認し、動作温度や放熱条件を考慮してマージンを取ることが重要です。

高速整流ダイオード(FRD)との違いと選び方

高速整流ダイオード(Fast Recovery Diode:FRD)は、従来型のシリコン整流素子に比べて逆回復特性(Reverse Recovery Characteristic)を大幅に改善したデバイスです。

通常の整流ダイオードではスイッチング動作中に蓄積キャリア(ストアドチャージ)が残留し、極性が切り替わる際に逆回復電流(Irr)が一時的に流れてしまいます。FRDはこの残留電荷を最小化することで、逆回復時間(trr)を短縮し、高周波スイッチング用途でも安定した動作を実現します。

代表的なラインナップとしては、ROHM RFNシリーズやPanasonic UFシリーズなどがあり、インバータ制御、DC-DCコンバータ、モータードライバなどの高速電力変換系に広く採用されています。

ショットキーバリアダイオード(SBD):低損失・高速スイッチングのメリット

ショットキーバリアダイオード(SBD)は、金属と半導体の接合によって形成されるショットキー接合ダイオードで、低順方向電圧(VF)と高速スイッチング特性を兼ね備えています。

これにより、整流時の電力損失を大幅に低減できるため、スイッチング電源やDC-DCコンバータ、太陽光パワーコンディショナなどの高効率回路に最適です。一般的なPN接合ダイオードのVFが約0.7Vであるのに対し、SBDは約0.3V前後と低く、発熱も少ないのが特徴です。

スイッチング電源やDC-DCコンバータでの活用

ショットキーバリアダイオード(SBD:Schottky Barrier Diode)は、低順方向電圧降下(Low VF)と超高速スイッチング応答を兼ね備えたデバイスとして、スイッチング電源やDC-DCコンバータの整流ステージにおいて広く利用されています。スイッチング電源ではトランジスタが高周波でON/OFFを繰り返すため、電流の極性が短時間で反転します。

その際、SBDはキャリア蓄積を伴わない金属‐半導体接合構造を採用しており、逆回復電流(Reverse Recovery Current)をほぼゼロに抑制できる点が大きな利点です。SBDの利点は、伝導損失の低減と熱抵抗の軽減による高効率動作ですが、一方で高温領域でのリーク電流増加という課題もあります。

ツェナーダイオード:定電圧・過電圧保護に不可欠

ツェナーダイオードは、一定の電位を維持するリファレンス素子として設計されたデバイスであり、その動作原理はツェナー効果(Zener Effect)およびアバランシェ効果に基づいています。逆方向にバイアスを印加すると、接合部の電界が臨界値に達した時点でキャリアのトンネル効果や衝突電離が発生し、ツェナー降伏電圧(VZ)で電流が安定的に流れ始めます。

これにより、入力電圧が変動しても出力電圧を一定にクランプでき、電源の安定化や過電圧リミッタとして機能します。

ツェナー電圧の選び方と回路設計の注意点

ツェナーダイオードの選定においては、回路全体の安定動作領域(オペレーティングレンジ)に応じたツェナー電圧(VZ)の設定が重要です。

一般的には、負荷側で要求される出力電圧よりもわずかに高いツェナー電圧を選択し、電圧降下やライン変動を考慮して設計します。動作安定性を確保するには、ツェナー電流(IZ)が定格動作範囲内に収まるよう、シリーズ抵抗を適正に設定することが不可欠です。

電流が過小な場合はクランプ動作が不安定になり、過大な場合はジュール発熱による電力損失(PZ = VZ×IZ)が増加して素子劣化を招きます。

発光ダイオード(LED):照明から表示まで幅広く活躍

発光ダイオード(LED)は、順方向に電流を流すと電子と正孔が再結合し、光を放出する半導体素子です。用途は照明、ディスプレイ、インジケータなど多岐にわたります。

代表的な製品にはNichia(ニチア)やCreeの高輝度LEDシリーズがあります。メリットは高効率・長寿命・省電力である点、デメリットは温度上昇による輝度低下や色変化です。選定時には順方向電圧(VF)、順電流(IF)、輝度(cd)、発光波長(λ)を確認し、用途に合わせた放熱設計を行うことが重要です。

高輝度・高効率化の進化とカラーバリエーション 近年のLEDは、半導体材料の進化により高輝度化・高効率化が進んでいます。

青色LEDや白色LEDの登場により、照明・自動車・ディスプレイ用途が急拡大しました。代表的な製品には、OSRAM OSLONシリーズやCree XLampシリーズがあります。高輝度LEDは少ない電力で強い光を得られる一方、発熱が大きいため放熱設計と電流制御が不可欠です。カラーバリエーションも豊富で、赤(AlGaAs)、緑(InGaN)、青(GaN)などが代表的です。

フォトダイオード:光センサーとしての利用

フォトダイオードは、光が当たると内部で電子と正孔が生成され、電流が流れる「光電効果」を利用した受光素子です。光強度に比例して電流が変化するため、光センサーや測距センサー、リモコン受信部などに使用されます。代表的な製品はHamamatsu S1223シリーズやOSRAM SFHシリーズです。

メリットは応答速度の速さと高感度、デメリットはノイズに弱い点です。選定時は感度波長(λp)、暗電流(ID)、応答速度(tr)、受光面積などを確認し、必要な検出精度に応じて最適なモデルを選定します。

その他:定電流ダイオード、可変容量ダイオードなど

ダイオードには、一般的な整流や保護用途に加え、特定の動作特性を持つ特殊タイプも数多く存在します。定電流ダイオードCRD)は、印加電圧が変化しても一定の電流を流す性質を持ち、電源電圧が不安定な環境でも安定した動作を実現できます。

特にLEDの電流制御やトランジスタのバイアス電流設定に適しており、シンプルな回路構成で安定性を確保できる点が大きな利点です。

代表例としてROHM E-102シリーズやToshiba CLDシリーズなどが挙げられます。一方、可変容量ダイオード(バリキャップ)は、印加電圧に応じてPN接合の空乏層幅が変化し、その結果キャパシタンス(容量)が可変となる素子です。高周波回路の発振器(VCO)やチューナー回路で周波数制御に使用され、ラジオや通信機器に欠かせません。

【専門社視点】失敗しないダイオード選定のチェックリスト

ダイオードを選定する際、データシートの「最大定格」だけを見て安心していませんか? 実際の電子回路設計においてトラブルの原因となるのは、スペック上の数値そのものではなく、動作環境や経年変化を考慮していない「マージン(余裕)不足」や、トレードオフ関係にある「隠れたリスク」の見落としです。私たち専門商社には、量産段階で熱問題が発覚したり、市場環境下で想定外のリーク電流により故障したりといった相談が数多く寄せられます。

ここでは、カタログスペックを鵜呑みにせず、長期的な信頼性を確保するためにプロが必ずチェックしている選定のポイントを、現場視点で具体的に解説します。

絶対最大定格は「ディレーティング」で考える

データシートに記載されている「絶対最大定格」は、「一瞬たりとも超えてはならない限界値」であり、「この値なら連続して使い続けても良い」という推奨値ではありません。ここを誤解して定格ギリギリで設計すると、電源投入時のサージ電圧や、夏場の周囲温度上昇などに耐えられず、短期間で故障に至るリスクが高まります。

そこで重要になるのが「ディレーティング(軽減)」という考え方です。これは、定格に対して一定の余裕を持たせた範囲で使用することを指します。一般的に、電圧に関しては定格の80%以下、電流に関しては定格の50%〜70%程度で使用することが推奨されます。
例えば、回路電圧が12Vの場合、逆方向耐圧がちょうど12Vのダイオードではなく、余裕を見て20Vや30V以上の定格を持つ製品を選びます。

さらに注意が必要なのは「温度ディレーティング」です。多くのダイオードは、周囲温度が高くなると流せる電流の上限が下がります。データシートには「温度-電流特性曲線(ディレーティングカーブ)」が記載されていますので、製品が使用される最高温度(筐体内部温度を含む)において、必要な電流容量が確保できているかを必ず確認する必要があります。商社としては、最悪の条件を想定しても定格の半分程度の負荷で収まるような選定を推奨しています。

Vf(順方向電圧)と発熱のトレードオフ

ダイオードに電流が流れるとき、必ず発生するのが「順方向電圧降下(Vf)」による電力損失と発熱です。電力損失(P)は「流れる電流(If)× 順方向電圧(Vf)」で計算されます。
例えば、3Aの電流が流れる回路で、Vfが1.0Vの標準的な整流ダイオードを使うと、3Wもの熱が発生します。これは素手では触れないほどの高温になり、放熱対策が必要になります。

ここで「Vfが低いショットキーバリアダイオード(SBD)を使えば発熱を抑えられる」と考えるのは正解ですが、ここにはトレードオフ(二律背反)が存在します。一般的に、Vfが低いダイオードほど、逆方向漏れ電流(Ir)が大きく、逆方向耐圧が低い傾向にあります。
極端にVfが低い製品を選ぶと、発熱は減っても、OFF時に漏れてくる電流が増えたり、サージ電圧への耐性が弱くなったりします。
選定時は、単に「Vfが低いから高性能」と判断するのではなく、「許容できる発熱量」と「必要な耐圧・漏れ電流特性」のバランスを見極めることが重要です。最近では、このトレードオフを改善した「低Vf・低Ir」を謳う新型SBDも各社から登場しており、これらを含めた比較検討が必要です。

意外と見落とす「漏れ電流(Ir)」のリスク

ダイオード選定において、最も見落とされやすく、かつ重大な事故につながりやすいパラメータが「逆方向漏れ電流(Ir)」です。理想的なダイオードは逆方向には電流を一切流しませんが、現実は微量ながら電流が漏れて流れます。

特に注意が必要なのは、ショットキーバリアダイオード(SBD)を使用する場合です。SBDは構造上、一般的なPN接合ダイオードに比べてIrが大きいという弱点があります。さらに恐ろしいことに、Irは「温度が上がると指数関数的に増加する」という特性を持っています。
動作中に自己発熱や周囲温度の上昇で素子が熱くなると、Irが増えます。Irが増えると、それが電力損失(熱)となり、さらに温度が上がります。この悪循環が続くと、最終的には制御不能な温度上昇を招き、素子が破壊される「熱暴走」が発生します。

バッテリ駆動機器の逆流防止用途などでは、この漏れ電流がバッテリの自己放電(無駄な消費)につながることもあります。設計者は常温(25℃)のデータだけでなく、高温時(100℃や125℃)のIrスペックを確認し、熱暴走しない安全圏内で使用できるかを検証する必要があります。

パッケージ選定と放熱設計のリアル

電気的なスペックが決まったら、次は物理的な形状(パッケージ)の選定ですが、ここにも「放熱」と「調達」の落とし穴があります。

まず放熱の観点です。同じチップ性能でも、リード線がついた「アキシャル型」と、基板に貼り付ける「面実装型(SMD)」では、熱の逃げ方が全く異なります。アキシャル型は空中に浮いているため周囲の空気へ放熱しやすいですが、SMD型は基板の銅箔パターンを通じて放熱します。したがって、SMD型を採用する場合は、基板のパッド面積を広く取ったり、多層基板の内層ベタへ熱を逃がすビア(穴)を打ったりといった、基板設計側での工夫が不可欠です。小型化を優先して小さなパッケージを選ぶと、熱が逃げ場を失い、定格電流を流せなくなるケースが多発しています。

次に調達の観点です。近年、自動実装に適したSMD型への移行が急速に進んでおり、昔ながらのアキシャル型や大きなねじ止めパッケージ製品の中には、メーカーが生産縮小(EOL)を発表するものも増えています。新規設計で古いタイプのパッケージを選ぶと、数年後に部品が入手できなくなるリスクがあります。
専門商社の視点では、「熱設計的に無理がなく」かつ「各メーカーが主力として生産している標準パッケージ」を選定することが、製品寿命を通じた安定生産への鍵となります。

最新のワイドバンドギャップ半導体ダイオード(SiC、GaN)のメリットと将来性を考える

近年注目されているSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップ半導体ダイオードは、従来のシリコン素子を凌駕する特性を持ちます。

これらは高耐圧・低損失・高速スイッチングを実現し、特に高周波電力変換やEV(電気自動車)インバータ、太陽光パワーコンディショナなどの高効率電力機器で採用が進んでいます。SiCショットキーダイオードは、逆回復電流がほぼゼロで、数百V〜数kVの高耐圧動作を可能にします。

代表例として、ROHM SCSシリーズやInfineon CoolSiC™があります。GaNデバイスはさらに高速で、RF機器や小型電源向けに有効です。

まとめ

ダイオードは、電流の整流や回路保護、電圧安定化、発光・受光など、電子回路に欠かせない多機能な半導体素子です。

用途に応じて整流ダイオード、ショットキー、ツェナー、LED、フォトダイオードなどが使い分けられ、それぞれ特有の特性と役割を持ちます。特に技術者や開発担当者にとって重要なのは、順方向電圧(VF)・逆耐電圧(VR)・逆回復時間(trr)・熱設計といったパラメータを理解し、目的に応じて最適な素子を選定することです。

近年では、SiCやGaNといったワイドバンドギャップ材料のダイオードが登場し、高効率・高耐圧・小型化を実現しています。

今後の設計では、これら新素材の採用や放熱・信頼性設計を含めた総合的な最適化がポイントとなります。本記事を参考に、実際の製品選定や回路評価へとつなげ、より高性能な電子機器開発に役立ててください。